高知県の県木・魚梁瀬(やなせ)杉を主役にして製作したギターとその一連の活動『Yanase Cedar Project』についてまとめました。(2019.10.25追記)
①概要
日本三大スギ美林の一つであり、高知県の県木に指定されている魚梁瀬(やなせ)杉を主役にしたギターです。その中でも、油杢(あぶらもく)と呼ばれる美しい木目が出た部材を使用しています。油杢の杉材は乾燥後の狂いが大きく、また曲げや接着や塗装が困難なため、無垢材の削り出しを除いて立体的な造形は困難とされてきました。そのため、これだけ美しいにもかかわらずギター用材としては一部の平面的な装飾材としての使用にとどまっています。今回、各部材を通常のギターよりも細分化し、さらに部材や面積によって接着剤の種類使い分けることにより、世界で初めて魚梁瀬杉を横板・裏板を含む各箇所に使用したギターを製作しました。
② 目的その1 ~国産材を使ったギター~
私はギター製作を生業としていますが、材料の多くは輸入材に頼っているのが現状です。大きな理由は、それらがギター材として伝統的に使われてきたことが生んだ市場のニーズに応えるためです。しかし一部の樹種に需要が集中したため、それらのギター材として伝統的な材料は次々とワシントン条約のリストに載る事態に陥っています。そこで、国産材を使って魅力的なギターを作ることができれば、外来材への依存から脱却するとともに国産材の新たな需要を生むことができると考え、今回の製作にいたりました。
③ 目的その2 ~樹種の選定とデザインについて~
目的その1で記した国産材を使用したギターは、すでに商品化に成功している国内工場もあります。私は「個人製作家」という立場ですので工場のように量産はできませんが、1本1本ハンドメイドだからこそできるアプローチもあります。それが今回使用した魚梁瀬杉の油杢のような、手間がかかりすぎて工場ラインにのせる材料としては採算が合わない木材の使用です。デザインに関しても、なるべく手間がかかり手作業でないとできないことをテーマとしました。そうすることで、量産できる強みを活かした工場製の国産材ギターと手間をかけ手作業だからこそできる強みを活かした手工製国産材ギターでそれぞれ役割分担することができ、潜在的需要をより広くカバーできると考えたからです。
④ 魅力その1 ~感性を高めるギター~
ギターは通常「視覚(ギターを見る)」「触覚(弾く)」「聴覚(聴く)」を使います。さらにこの魚梁瀬杉のギターは非常に芳香性の高い油杢を多用したことで、弾き手の「嗅覚」へも働きかけます。ギターを抱えた瞬間に魚梁瀬杉の甘い匂いに包まれるのです。弾き手の感性を育むギター、それが魚梁瀬杉のギターです。
⑤ 魅力その2 ~経年変化を慈しむ~
ギターは成長する楽器です。部材や塗装が時間とともに徐々に馴染んで構造体として安定していき、また弾くほどに板が振動しやすくなりより良い音に変化していきます。さらに紫外線や酸化により素材の色味も味わい深いものになります。弾き傷さえも歴史として刻まれていくことでしょう。そのように弾き手に寄り添うようにして経年変化していく様子を慈しむのもまた魅力の1つと言えます。
⑥ これまでの活動
2017 サウンドメッセ in OSAKA 出展
2017 TOKYO ハンドクラフトギターフェス 出展
2017 Woodstock Invitational Luthiers Showcase(NY州)出展
2018 米アリゾナ州の楽器博物館 Musical Instruments Museum より学芸員が視察のため工房に来られました。
2018 高知テレビ 「ミュージックムーブ」番組内にて紹介して頂きました。
2018 高知新聞 2018/9/20付け 朝刊社会欄にて掲載して頂きました。
2018 モネの庭(高知県北川村)にて、「魚梁瀬杉の歌がモネに響く夜」というイベントを開催、宇高靖人さんに演奏して頂きました。
2019 ウッドデザイン賞 受賞 ハートフルデザイン部門 木製品カテゴリ
⑤ 今後の展開
今後も国内外の様々な見本市やイベントへ積極的に参加する予定です。そうすることで発信する相手がギターを弾く方に限定されず、より多くの方にこの試みを知って頂けるからです。国産材の素晴らしさ、そして木材の良さや新しい価値を、個人工房のギター製作家としてのアプローチで継続的に発信していくことがミッションだと考えています。
(2019.10.25追記)