久しぶりに大きめの修復作業をお引き受けさせて頂きました。(ご依頼主に許可を頂きましたので)備忘録を兼ねてご紹介させて頂きます。
尚、修理は音/構造/オリジナル性/予算/納期など、ご依頼主によって優先順位が異なります。今回は、“分解せずに(トップやバック、ネックを外さずに)弦を張れる状態に”というご要望を受け作業内容を決定いたしました。
具体的な作業内容は、
①象牙ブリッジ取り外し
②専用クランプを制作してブリッジプレート取り外し
③新規ブリッジプレート制作&接着
④象牙ブリッジ継ぎ足し&底面補修
⑤各所割れ補修(合計33箇所、埋木はなし)
⑥タッチアップ
⑦サドル溝の補修&新規サドル制作
でした。
また今回の修復にあたっては、Gryphon Stringed InstrumentsのFrank Fordさんが考案された方法を参考にさせて頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。
以下、ざっくりではありますが修復工程です。
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19世紀のギターです。
象牙のブリッジはボロボロで、ウイングの片側部分はなくなっています...。
ご依頼主の大切なギター。なんとしても蘇らせるべく知恵を絞ります。
ブリッジの下側でトップ板が(木目をまたぐ方向に)完全に寸断しています。
ブリッジを取ったら、なんとトップの大部分が(過去の修理による)謎の埋木で貫通していました。
ブリッジは長年に渡って力が加わり、大きく反りとねじれが出ていました。
トップ板の変形です。
ブリッジプレート(交換歴有)の位置を確認したところ、ブリッジの手前までしかありませんでした。新しいブリッジプレートは(構造を重視して)寸断されたトップを補強する形状にしました。
既存のブリッジプレート(交換歴有)を外すための専用クランプを作っています。
ブリッジプレートの接着剤に熱を加えるための専用クランプです。
こちらはブリッジプレートに加える熱がトップ板にダメージを与えないように放熱するための当て板です。新しいブリッジプレートを接着する際の当て板も兼ねています。
ギターの内側。熱源の入ったシリコンブランケットから専用クランプを通じてブリッジプレートを加熱、接着剤を柔らかくしています。
ブリッジプレート(交換歴有)が取れました。トップを貫通した埋木も綺麗に取れました。
新規ブリッジプレートは板目のメイプルと、
内側はトップと同じ木目方向のスプルースをラミネートしました。トップの寸断を補強する目的です。
新規ブリッジプレートを接着しています。
トップの変形を補修できました。
象牙ブリッジの欠けた部分を継ぎ足しました。
象牙にも木目(?)がありますので、継ぎ目はわかります。
トップ板の接着面を補修、ブリッジの底面を補修して再接着、サドル溝を補修、新規サドルを制作して作業完了です。
ご依頼頂きましてありがとうございました。