Ryosuke Kobayashi Guitars

神奈川県相模湖に工房を構えるギター製作家・小林良輔のブログ。製作日誌や理念を綴っています。-Ryosuke Kobayashi Guitars-

About Guitar Soundboard

ご縁があって、(製作家としても著名な)アディロンダックスプルースのサプライヤーの方のインタビューを翻訳させて頂いています。彼は長年のキャリアの中で、2〜3本の例外を除きトップ材は全てアディロンで製作されてきたとのことです。その理由は、「トラディショナルなサウンドを求めている」からだそうです。
インタビューにおいてアディロンと他のスプルースとの違いを説明する中で、特に強調されているのが「良し悪しではなく、それぞれのスプルースはapplication(適性)が異なる」ということです。
「例えばブルーグラスなど、しっかりしたピッキングをするプレイヤーにはHeadroomのある(強く弾いても音が潰れない)アディロンがベストだし、逆に柔らかいタッチで弦をなでるように弾く人はイングルマンが良いかもしれない」と言っています。

本当にその通りだと思います。また、"適材適所"というのは「トップ材の使い分け」だけではなく「トップ板の作り込み」にもそのまま当てはまります。『アコースティック・ギター作りの匠たち2』でトップ材のインタビューをお受けした際にも言いましたが、トップ板の作り込みには大きく分けて「すぐ使い」のものと「育てる」ものがあります。「薄く軽い」トップを効率良く振動させれば、新品時から大きな音量と迫力のある低音が出ます。これは「厚くて丈夫な」トップには出せない音です。逆に「厚くて丈夫な」トップで作ったギターは新品時こそ大きな印象は残りませんが、2〜3年も弾きこめば「薄く軽い」トップには出せない太く力強い音が出ます。これらは優劣の問題ではなくまさに「application(適性)の違い」であり、そもそもこれらを同じ土俵に上げること自体が見当違いなのです。
また、同じ条件下(例えばレギュラーチューニングで弦を張りっぱなしの場合)では当然「薄く軽い」トップの方が早く壊れますが、これはギターを弾かないときは毎回弦を緩める方にとってはさほど大きな問題にはならないかもしれません。

長くなりましたが、声高に叫びたいのは、プレイヤーが求めるものによってトップの作り込みは大きく変わり、技術のある日本人製作家は既にその作り分けができるレベルにあるということです。

楽器店の店頭在庫は製作家の引き出しの一部にすぎません。ですから、音でも見た目でも弾きやすさでも何かしら心にひっかかるものがありましたら是非お問い合わせください。「〇〇な音のするギターを探していますが作れますか?」と。その答えで製作家の力量がわかるでしょう。

※写真は、「application」によって作り分けたトップ板の一部です。

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